「S.D.G.、それにまつわる人々」(3)~何を課題とするのか
今シリーズで解明しようとする課題点を以下に提示する。
(1)創元推理文庫の旧装丁者の名義に現れる、「S.D.G.」が何を指しているのかわからない
先に示したように、創元推理文庫の旧装丁の内、個人名の前に「S.D.G.」という名義が併記される作品が少なからず存在する。oldsogenbotをフォローしてくださった方であれば、そのツイートで何度かは「S.D.G.」という名を目にされているはずである。
しかし、この「S.D.G.」が一体何を指すのかは、これまで明らかではなかった。
その結論は、実は既に前回紹介した資料中に出てはいるのだが、今回のシリーズでは、その結論だけにとどまらず、どのようにして結論を見つけるに至ったかも、合わせて書き残しておこうと考えている。
(2)S.D.G.と併記される三人の詳しい経歴がわからない
S.D.G.もさることながら、S.D.G.名義が併記されていた3人の装丁者、
- 太田英男
- 石垣栄蔵
- 藤沢友一
についても、経歴等を紹介したものは、ネット等で簡単にアクセスできる程度では、見つけることができない。あったとしても、他に数冊の(創元推理文庫以外の)装丁をしたことがわかる程度である。
この3人(実際のメインは2人)について、自力で経歴を調べようというのが、今回のもう一つの課題である。
※後述することになるが、石垣栄蔵、藤沢友一はネットで調べるだけでも、他作品の装丁があることがわかる。一方で、太田英男については、ネット上にあるのは、創元推理文庫の装丁を担当した、という点だけであった。
なぜ「アート・コーナー」まで?
ここで、ひとつ注記をしておこう。なぜ、上記2つの問題点を解明するに当たって、「アート・コーナー」の作品も考察対象に含めているのか、という点である。
太田英男・石垣栄蔵・藤沢友一の3人は、その名前が「S.D.G.」と併記される、という共通点があった。一方で「アート・コーナー」という名義が、S.D.G.と併記された作品は一冊もない。
なのに、なぜ筆者は今回S.D.G.というテーマと共にアート・コーナーを取り上げるのだろうか。
それは、(丁寧に先の書影とデータを見比べた人なら気付いたかもしれないが、)ある2つの装丁を通して、アート・コーナーとS.D.G.の関連が推測されるからである。
その作品とは、「通り魔」と「復讐の女神」という、フレドリック・ブラウン作品であった(当初書いていた「ディクスン・カー作品は間違いでした)。確認のため、ここにもう一度データを示しておこう。
302 通り魔
「ART CORNER」 初版 1963/3/8
335 復讐の女神
ここに示したように、1963(昭38)年には「アート・コーナー」のものとされた「通り魔」に対して、その翌年に色違いで出た「復讐の女神」には「S.D.G. 石垣栄蔵」という別名義が付与されている。ここに、筆者はアート・コーナーとS.D.G.との関連性を疑ったのだ。
この証拠だけで、はっきりと関連を認められるのかどうか、筆者としても若干強引という気がしないでもない。 根拠が、たった二冊のクレジットに過ぎず、どちらかがクレジット表記のミスをしているという可能性も捨てられないからだ。
現在所有している範囲では、上のような「色違いのデザインが、全く別の名義で紹介される」例は他に認められないので、かなり特殊な例だということもある。
※ただし、日下弘の装丁においては、共同作業したデザイナーの名義が、色違いの別の装丁では削除されているという例が、複数組存在している。とは言え、これらの例ではどちらの装丁にも日下弘名義は残っているので、「全く別の名義で」というわけではない点に違いがある。
例】
『クリスチィ短編全集1』 アガサ・クリスチィ (カバー:日下弘・赤松美弥子/初版 1966) 横顔 創元推理文庫旧装丁bot 東京創元HP⇒http://t.co/39hBMBwEhk(改題) pic.twitter.com/uhX7hkNK7E
— 創元推理文庫旧装丁bot (@OldSogenBot) 2015, 7月 24
『クリスチィ短編全集2』 アガサ・クリスチィ (カバー:日下弘/30版 1976) 横顔 創元推理文庫旧装丁bot 東京創元HP⇒http://t.co/B4SMGYeQ3K(改題) pic.twitter.com/cErr6unjkB
— 創元推理文庫旧装丁bot (@OldSogenBot) 2015, 4月 10
さて、結論を先に示してしまえば、現状ではこの点に関しては、確たる結論を得るところにまでは到達できなかった。しかしながら、確証はないものの、周辺的な状況証拠に関しては示すことができるため、現時点でのデータを紹介し、「S.D.G.とアート・コーナーには関連がある」という説にどれだけ説得力があるかは、読者の判断にゆだねたいと考えている。
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