佐藤集雨洞の洞穴

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S.D.G.と、それにまつわる人々(8) 最初の「わかった!」

S.D.G.の調査が息詰まってしまった時期に、別の方面での調査が一気に進むこととなった。それは、石垣栄蔵についてだった。

これは以前も書いたのだが、ネット上の調査をした段階で、石垣には他の装丁の仕事が見つかっていた。

例えば、次に挙げるように(画像は全て注に示すように、ネット上から拾ってきたものだ)、旺文社では創元推理文庫時代と同様、ミステリー作品のカバーを担当している。

『黄色い部屋の謎』

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http://frontend-http-elb-979410592.ap-northeast-1.elb.amazonaws.com/item/yahoo/auction/c502106255 より

『緋色の研究』

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http://www2.uneedbid.com.hk/yahoobid.php?id=r107078777&cid=182160 より
(右が石垣栄蔵。 左は創元推理文庫日下弘装丁のもの)

『男の首』

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http://buyee.jp/item/yahoo/auction/o90890376 より

旺文社では他にも数点、石垣の装丁したものが見つかっており、まだ仕事の全体像は把握できていないものの、一つ二つと言うことではなかったようだ。場合によっては創元推理文庫でよりも、点数としては旺文社文庫での仕事の方が多い可能性もある。

創元推理文庫では、「前提となるデータ」の回 リンクにあるように、8点の装丁を担当している)

 

他に、主に国立国会図書館やその他図書館HPを利用した検索でもいくつか担当作が見つかった。

次に挙げるのはそうやって見つけ、筆者が期待して入手したもので、『魚の歳時記』という作品だ。これもミステリーのものと同様、旺文社文庫から出版されている。

期待した、というのは、本の装丁での名義ではなく、挿絵の担当である事がわかったためだ。装丁一つではなく、本の中のイラストを複数描いていたら、いろいろなタッチの作品を目にできるかと思ったのだが…

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末広恭雄(1982) 『魚の歳時記』 旺文社文庫

実は、残念ながらこの本の挿絵は石垣単独でのものではなく、4人の画家が分担して作画したものだった。 挿絵担当者として、石垣栄蔵・立石鉄臣・牧野四子吉・渡辺可久の4人の名が上がっている。しかも、挿絵ごとに画家名が書いてあるわけでもなかったため、残念ながら「これが石垣の絵だ」と指摘することはできない。

2-Scan0868  1-Scan0869

挿絵はこれらの頁に限らず、どれもが図鑑に載るような精細なものであり、恐らく石垣にとっては、デザイン性のある仕事とは別物として取り組んだものだっただろう。ただ、そういう「魚類の研究者が書いた本」の挿絵を担当できたということか、石垣の力量を物語る一つのエピソードと言えるのではないだろうか。

 

そんな中、わずかではあるが、石垣の人となりをつかむことのできる記述を、ある本から見つけることができた。シリーズで何冊か発行された、赤毛のアンの手作り絵本』というものだ。

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鎌倉書房書籍編集部/編(1980) 『赤毛のアンの手作り絵本』 鎌倉書房

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鎌倉書房書籍編集部/編(1980) 『赤毛のアンの手作り絵本』 鎌倉書房

筆者が確認できた2冊には、どちらも、巻末で各作業担当者のエピソードが紹介されている。せっかくなのでここには2冊のどちらからも、引用したい。

『I』より 石垣栄蔵先生 「最後の頁まで、心を込めて作りたい…」というのが、スタッフみんなの願いです。その気持ちを汲んで、わかりやすいイラストで作り方を説明してくださったのが石垣さん。「作り方の頁もポエジーを感じられるように…」と一筆一筆に気持ちを込めて、描いてくださいました。

『II』より 石垣栄蔵先生 トントントン…石垣先生のお宅に近づくといつもこんな音が聞こえます。それは、先生が油絵や木版に加えて、彫刻もなさるから。デッサンの確かさはそんなところから、くるのかもしれません。 この本のイラストをかくときも、ご覧のように作品を一つ一つチェックして、「なるほど、なるほど」と納得してから、作る人にわかりやすく説明してくださいました。そんなわけで、「なるほどネ先生」という愉快なニック・ネームがつきました。

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そんな作業を経て描かれた、「作り方イラスト」は、次のようなものだ。上の絵にあるように、本当に虫眼鏡を使って描かれたのかもしれないと思わせるものになっている。

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ちなみに、表紙を始めとする赤毛のアンのイメージイラストは、松浦英亜樹という別の人物が担当している(上の「なるほどネ先生」のイラストも恐らく松浦氏のものだろう)。

こうして、今回の調査で初めて、その人となりが描かれた資料が見つかり、調査を諦める必要はないかもしれないと感じることができるようになった。そして、こういうことは続くものなのか、石垣栄蔵についてさらに確実な経歴を記録してくれた書籍も見つけることができた。

(つづく)

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